一九三〇年の夏、それはエドワード・バッチ博士が最も試行錯誤した時期かもしれません。多くの植物で実験を行い、その成果を学術誌へも投稿しています。その中には今日の花療法レメディ群には無いアルヴェンシスと言う芥子の一種もありましたが、それは後に放棄して別の植物と変わりました。
第五の薬であるチコリーも、その時の植物のひとつです。根は飲用に、葉は食用になり、日本でも馴染みのあるものです。荒地や麦畑の端など、白亜系の泥灰質の土壌に生育し、主根は一メートル以上になり堅い茎が枝別れして茂みを成します。ロゼッタ状の葉も、細い線の入った茎も柔らかな毛で覆われ、花は無柄で葉軸につき、連続的に咲く蕾が密生していますが、一度に開花する花はせいぜい数個です。星の形をしたその花の鮮烈な彩りを、博士は「聖母の青色」と呼び愛しました。
チコリーは、感情面での強い絆を異常なほど強く求める人のためのエッセンスです。彼らは表面的には無私無欲に見えることもありますが、実のところ独占欲が強く、見返りを求めて執着し、手放すことが苦手です。小さな子供やペットが、自分に注意を引こうと躍起になる状態にも有効なエッセンスです。
看護師の彼が、はじめて僕を訪ねて来たその日は、夜勤明けのようでした。切々と複雑な生い立ちを語り、そして数々の試練を語ってくれましたが、今これと言った悩みは無いと言うのです。つまり彼にとっては人生そのものが悩みであり、過去の出来事全てに執着せねばならず、自分はこれだけ尽くしたのに何も報われていないという無念感に苛まれていたのです。
チコリーを中心に処方を繰り返しましたが、初めのうちは一日に四回の服用を忘れることも多く、うまく行きませんでした。ところが生活習慣を見直し、何とかエッセンスの摂取を規則化できるようになった頃、彼はセラピーの中で興味深いことを言い始めたのです。
「ゆうすけさん、人生って過去の延長線上にあるんじゃないんですね。」
それはまさしく花療法の作用でした。
週刊レキオ NO.1158 2007年6月7日号